忍殺を踏まえた「コミックマスターJ」レビュー 〜忍殺というJUDGES〜

ニンジャスレイヤーのコミカライズを田畑・余湖両センセイが手がけると知った時、私の手は震えました。

「おお、ブッダ! これ以上の人選はあるだろうか!」

なぜなら彼らの代表作のひとつコミックマスターJは私の最も好きなマンガのひとつであると同時に、ニンジャスレイヤーに通じるところの実際多い作品であったからです。だからこそ私は、ニンジャヘッズの皆様にこそ、コミックマスターJをオススメしたい。

実際オムニバス形式である

コミックマスターJは時系列こそランダムでないものの、連作オムニバスに近い形式であり、毎回様々な漫画家とそれをとりまく人々の視点で物語が語られます。ちょうど忍殺における日々を精一杯生きる愛すべきモータルのように。そして彼らが困窮極まったその時にこそ、コミックマスターJは現れる。よく時代劇に例えられるこの構成は日本人に実際好まれるものです。

連作なので自由度も実際高く、コミックマスターJにもトコロザワ・ピラーめいた連戦突破回、野球回、温泉回、さらに女の子が主人公の回まで存在します。Jはソバエントリーこそしませんが、好物はカップ麺です。これらの共通点を見つけてしまっては、両作品にシンクロ性を感じてしまうのも無理からぬというもの。

実際凄まじい眼力

キャラクターとしてのニンジャスレイヤーとコミックマスターJは相違点も多いですが、私はまだ漫画化が決まる前、文章で忍殺を読んでいた頃から、フジキドの目はJの目でイメージしていました。眼力だけで背負ってきた人生を語るような、あの怒りと執念に燃える壮絶な瞳。忍殺コミックス「マシン・オブ・ヴェンジェンス」をお持ちの方は175Pをご覧頂きたい。これが、その目だ!! 

https://twitter.com/njslyr_ukiyoe/status/388291706983952384

Jは復讐者ではない。2人は確かに違うが……同じアトモスフィアが、ある。余湖センセイの画で描かれるべきキャラクターだったのだ、フジキド・ケンジは。

カラテだ!

もうひとつ。両作品の根底に共通する価値観として「カラテだ。カラテあるのみ」という基本理念があります。コミックマスター的には「漫画の実力が全て」ということになりますね。忍殺におけるカラテの重要性は言うまでもなでしょう。

コミックマスターJにおいても、己のカラテで戦わない者――パクリや詐欺師、単に実力の足りない漫画家――などは、たいてい悲惨な結末を迎えます。真面目で熱心であっても、裏にどんな事情やドラマがあろうとカラテ(漫画力)がなければ救われない。逆に、読者をいたずらに躍らせる作者や締め切りを破って担当の胃に穴を開ける者、売れる漫画を描かせるために作者の恋愛を妨害する編集者……一見悪者ですが、彼らにはカラテがあるので押し通る。これらの話にはある種ショッギョ・ムッジョめいた結末も多くあります。

聖書=JUDGES=ニンジャスレイヤー

そして、コミックマスターJ終盤で語られる「力を持つ物語は、世界を変えうる」という展開。「そう 例えるなら…… 聖書」私は忍殺のツイッター連載が第二部のクライマックスに近づくにつれ確信したのです。ニンジャスレイヤーはそれであると。

コミックマスターJ最終章では、「JUDGES」というたったひとつの漫画が原因で世界大戦が勃発しており、人類の大半は死に絶え世紀末、古事記に予言されしマッポーの世とはまさにこのこと! おおブッダよ、まだ寝ているのですか!? 本当に物語が世界を変えてしまったのです。確かに聖書も数多の戦争を引き起こしているが……。

そしてここでニンジャスレイヤーだ。忍殺のツイッター実況に参加したことのある方ならおわかりだろう。次のツイートであのキャラはどうなる? 勝つか? 負けるか? まさか……死ぬ? そしてタケノコが光り……! ウワアアアアアアアアアアーーーーーーーッ! 鼓動が早まり、喉は渇き、次のツイートを待つ間に呼吸は荒くなり、吐息はディスプレイを曇らせる!! まだ世界までは変わっていないかもしれない! だが確実に今! 一人の人間が死にかけている!!

ニンジャスレイヤーはこれができる物語なんです。

そして読者数がこのまま増え続けたら? 連載中に何人が死にかける? もしかしたら実際死ぬ! 想像してみてほしい。フジキドが、ガンドーが、実際死にそうなシーンをだ。デスドレインでもいい。ザクロかもしれない。カタオキはどうだ? あなたは耐えられるだろうか。

物語が物理的肉体に影響を及ぼす。その異常な現象がツイッターというリアルタイム性と合わさってひとつになった時、状況は加速し、現実の境目はあいまいになり、ゼンめいて混ざり合い、やがてあなたはこう思う事だろう。「ニンジャは……実際いる?」少なくとも私はその地平に至ったことがある。この物語は読者の精神に食い込みすぎている。もはや現実と相違ない! JUDGESは実在した! ニンジャスレイヤーとして!

ハァーッ、ハァーッ

だが待つべし。チャドー呼吸をして落ち着くべし。実は、そういった可能性をボンモーは、そしてほんやくチームは既に予見していた。なぜ彼らは毎日更新をしないか? 二部の連載の最中に三部を始めたか? 彼らの常套句である「セルフ管理メント」「高濃度すぎるニンジャアトモスフィアの緩和」とは何か。そういう事なのだ。彼らは常に読者の健康に気を使っている。健康を害する危険性を理解しているからだ。

とにかく、忍殺のそういった側面について考えさせてくれる「コミックマスターJ」はとてもオススメである。無印コミカライズをご存知のヘッズならば、そのクオリティが疑いない事がわかるでしょう。

だがクオリティが高いがゆえに、くれぐれも気をつけるようにしたい。世界平和のためにも。漫画や小説で戦争を起こしてはならない。

ニンジャはいない。いいね?